シンデレラの本名

「シンデレラ」は継母たちが付けたアダ名。「シンデレラの本名はElla」だとネット上で書かれているが、これはディズニーが創り出したもので、下敷きとなったペロー童話、グリム童話でも主人公の本名は明かされない。

2015年公開のディズニー『シンデレラ』実写版の主人公の名前は「エラ」。主人公を個性輝く女性として描いているので、どうしても本名が必要だったのだろう。「シンデレラ」と渾名された理由も映画の中で明かされる。灰を意味する cinder と主人公の名前 Ella を合わせて cinder Ella → Cinderella だという。

Cinderella の -ella は接尾辞。「どじょっこ」だの「ふなっこ」の「っこ」の部分で、それ単独では意味をなさない。 たまたま Ella が人名としてありそうな名前なので、 cinderella = cinder + Ella というこじつけが成立する。 エラがシンデレラになったのではなく、本当のところは「シンデレラ」から「エラ」が生まれた。

このこじつけも英語圏でこそ成立するが、他の言語、たとえばフランス語ではペロー童話の Cendrillon (サンドリヨン)が通用している。cendre は灰の意で、 -illon は小娘を意味する接尾辞。全体で「灰っこちゃん」となる。本名 illon というわけにもいかない。

『シンデレラ』実写版のフランス語吹き替え、あるいは字幕はそこのところをどうしてるのか。いらぬ心配をしていると、ネット上で実写版のフランス向け予告編を見つけた。フランス語版でも主人公の名前は英語版そのままに Ella としている。

dailymotion より)

- Cendre(灰)Ella
- Ella souillon(売女)

重なる Ellaを省き Cendre souillon → Cendrillon
ここのところの英語は
- Cinder Ella!
- Dirty Ella!

だったから、名訳と言えよう。

ちなみにドイツ語版はグリム童話の主人公名 Aschenputtel(灰かぶり娘) をあえて用いず、ディズニーの Cinderella をそのまま使っている。
- Zinder(灰) Ella!
- Zinter Ella!

と、繰り返し Cinderella! へと繋ぐ。

王子には本名を名乗らない
実写版の中で王子に主人公がその本名を名乗ることはない。王子に名を問われる機会は3度ある。最初に出会った森の中。日本語吹き替えでは次のようになる。
「君のことをどう呼べばいい?」
「名前なんかどうでもいいわ。」
悪くない翻訳だが、主人公エラがなぜここで答えをはぐらかしたのか理解しづらい。

Youtube
英文では次のようになる。(Movie Script
- Miss, what do they call you?
- Never mind what they call me.

英語に限らずヨーロッパ系言語で「君の名は」と聞くのは無粋なので、「みんなはあなたのことを何て呼ぶの?」という聞き方がある。
この直前に主人公は継母たちからシンデレラ、すなわち「灰かぶり」と呼ばれていたから、「みんなが私のことを何て呼ぼうと気にしない。」という答えになるのだ。

ここで王子は自分のことを「キット」と名乗る。これはたぶん父である王様が我が子を親しみを込め kid と呼んでいたからだろう。kid は「キット」と聞こえる。きっと。

2度目は舞踏会で再会し、秘密の花園からの別れ際。
「君は、本当は誰なんだ?」
「それを言うと、すべてが変わってしまうと思うの。」
相手が王子だと知った今、魔法の力で身なりを整えてはいるが自分は「灰かぶり」と呼ばれる村娘。それで躊躇したのだろう。

最後は生家で発見されて。このときは自分の身上をきっぱりと告げる。魔法の力など借りず。
「私はシンデレラ。王女じゃないし、馬車も、両親も持参金もありません。」
灰かぶりと呼ばれる、ただあなたを愛する実直な村娘。そんなありのままの私を受け入れてくれますか?と。
「もちろん。」と、王子。「もし、あなたも私をありのままに受け入れてくれるならば。」

「シンデレラ=灰かぶり」という渾名をめぐって、主人公の心境の変化がうかがえる。

いつから「エラ」が本名に?(2020-10-23 追記)
主人公の名前が「エラ」であるのは 2015年の実写版が最初ではない。

英語ライフ の記事によると、この記者が持っているディズニーの子供向けの洋書『Cinderella』に「奥さんに先立たれた紳士と美しい娘Ella(エラ)が住んでいました」と書かれているという。
there lived a widowed gentleman and his lovely daughter, Ella.


いっぽう、1950年のディズニーアニメでは冒頭、絵本を開いて読み上げる体裁で物語を始める。

(movie)

there lived a widowed gentleman and his lovely daughter, Cinderella.

こちらでは娘の名は最初から「シンデレラ」となっており、全編を通じて「エラ」は登場しない。

1950年のアニメ公開後のどこかの時点で本名「エラ」が登場したものと思われる。

関連記事:シンデレラはフランス語を話せる?
     シンデレラのスカート丈

初出:29 Aug 2019

Posted on 15 Dec 2022, 23:53 - カテゴリ: おとぎ話
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