幻のアラブ料理
アラビアンナイトには頻繁に料理が出てくる。その中でロズバジャという料理に興味がそそられた。ある男がその料理を食べたあとで手を洗わなかったことで、新婚初夜に新妻がその匂いを咎めて男の親指を切り落としてしまうという怖いお話。調べたところ、井上瑞子 が『アラビアンナイト博物館』でこの料理を再現している。ただしロズバジャではなくジールバージャという、鶏の煮込み料理。
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しかし、これには強い違和感があった。私の読んだ本には米と韮と香料でできているとあったから。
井上とは典拠が違うらしい。私のものは『完訳 千一夜物語』(岩波文庫)で、マルドリュス版を元にしている。井上が典拠にするカルカッタ2版やバートン版などによればジールバージャはクミン入りシチューであり、焼いた鳥の胸肉が入っており、砂糖や薔薇水、麝香で香り付けされている。ジールはクミンのことらしい、しかるに井上の再現レシピにクミンは入っていない。井上は玉ネギの成長した茎の代わりとして万能ネギを使っている。ガラン版ではニンニク入りのシチューとある。森本公誠(訳) タヌーヒー『イスラム帝国夜話』でディクバリーケの名で登場する。
どれが原典、オリジナルなのかは分からないので、私なりにこのストーリーにふさわしい料理を想像してみた。その鍵を列挙してみる。
1. 舞台は10世紀ごろのバグダッド
2. 匂いがきつい
3. 結婚式で出されている
4. ごちそうの中でも夢中にさせるほど美味
こう列記してみると、ますます食べたくなってくるではないか。アラブを中心に結婚式の定番料理を調べてみると、3つの候補が見つかった。サウジアラビアで カブサと呼ぶもの。またマンディ。パキスタン料理のビリヤニ。候補に挙げないがスペイン料理のパエリャもこれらの延長線上にあるパーティー料理と見える。
ビリヤニには唐辛子が入るのでスパイシーなカレーライスに近い。カブサやマンディのレシピに唐辛子は無いようだ。いずれも米料理で、使う香料も類似しているが、作り方が異なる。カブサは炊き込みご飯のようだが、マンディやビリヤニは蒸すので、日本の「おこわ」のような作り方になる。このうちでは特殊な作り方をするというのでマンディを最有力候補としたい。
シチューだとすると、スプーン代わりにパンを使ってすくうかつまむので、手に匂いは残らないはず。やはり米料理がここでは合っている。
カブサのレシピはネット上で見つかるが、マンディのほうは家庭での再現は難しいということで、レシピは見つからない。それでもオーブンを使えば近い物は作れそうに思える。
この方法でじっさいに作ってみた。
そのレシピはこちら
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