自由主義国家ができること
アベノミクスによる円高是正や大型公共投資期待で株価が上がっている。庶民にとって気になるのは、それがいつ給料に反映するか。前の記事『お金の回りかた』の続き。安倍首相「経済界にとっても一日も早くデフレ脱却をすることはプラスですから、「賃上げを全然しませんよ」という態度ではなくて、われわれの政策に協力をしてもらいたい、利益が出るという見通しの中では、従業員に還元していただきたい」。日本共産党笠井亮衆院議員の質問に(2013年2月10日 赤旗)。そして安倍首相は、サラリーマンの給与引き上げを、経済3団体のトップに直談判(2013.02.13 zakzak)。
米倉経団連会長はベースアップにはゼロ回答。ボーナスも「業績が良くなれば」という条件付き(2013年02月12日 ロイター)。景気回復が本物になり、給料にそれが反映するのはまだ先のようだ。逆にTPPや労働規制緩和などを首相に要請している(2013/2/12 日経)。
ところで、企業の業績が良くなれば給料も上がるというのは本当だろうか。さきの記事の図を再掲。

実績を見る限り企業の業績は賃金の多寡になんの影響もない。2002年〜2006年にかけての好況期にも賃金は横ばいもしくは下降している。2008年のリーマンショック以降はさらに低下。いっぽう大企業に限ってはちゃんと利益を確保しており、配当も低空ながら維持。内部留保は着実に積み増ししている。
どうして賃金に回らないのか。笠井議員の質問に対して安倍首相も麻生副総理も企業の「マインド」と繰り返した。麻生副総理は「共産国家ではないので強制はできない。我が国は自由主義国家ですから」と口を滑らせた。この発言は笠井議員にたしなめられ、安倍首相が撤回するという一幕も。
麻生副総理の「共産国家ではないので」発言は、ある意味正しい。資本主義の下で賃金は市場論理、需要と供給とで決まる。高度成長期の日本は経済の急成長に対して働き手が少ない「売り手市場」だった。企業は終身雇用を約束し、家族手当や手厚い福祉などで労働者を確保し繋ぎ止めた。今はそういう時代でもない。低賃金や過酷な労働条件で従業員が止めても、代わりはいくらでもある。失業率が高い中でも求人広告満載の理由は、労働者を使い捨てにする時代というのもある。
お願いして改まるという問題ではない。自由主義経済を採る限り、やむを得ない。とはいえ方法はある。たとえば法定の最低賃金を上げる。資本主義の本山とも言うべき米国でさえオバマ大統領は一般教書でこれを提案している(2013/02/13 ブルームバーグ)。ボーナスを上げるというローソンだが(2013年2月8日 東京新聞)、対象は正社員の一部。コンビニの店員はほとんどがバイトで、恩恵がない。最低賃金のアップは最低賃金スレスレで働いている彼らを全企業・全産業で底上げするので効果は絶大。
馬車馬のように働くという言葉があるが、じつは馬車馬は1日に8時間以上は働かせないそうだ。そうしないと寿命が短くなるからだという。過労死が絶えないいま、残業の禁止も急務。労働基準法第32条では一日8時間を超えてはならことを原則としているのに、さまざまな例外規定で残業を許している。残業を規制して労働時間を短縮することは、労働者の健康を守るだけでなく、雇用の創出にもなる。数%程度の失業率は残業規制だけでも解消してしまう。
以上、労働規制について2つだけ例を上げた。これらは資本の自由を制限するものとして新自由主義者たちが嫌うものだ。しかしこれらの制約を加えなければ「自由主義経済」そのものが成り立たないとして先人たちが作り上げたもの。いまこそこれが重要となっている時代ではなかろうか。
関連記事:
1.お金の回りかた
2.飛べないキメラ
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飛べないキメラ
小泉総理ー竹中平蔵の構造改革で格差と貧困が拡がったことはよく知られている。経済全体が下降する中での格差拡大だから悲惨。次の図はOECD先進国の名目GDP(シェイブテイル日記)
資本主義には景気循環があり、後退局面では失業と貧困が襲う。それが劇的に進むのを恐慌と呼ぶ。これを避けるために金融緩和や公共事業などで政府が介入する。このケインズの処方箋はやがて効力を失う。代わって1980年代に現れたのが「小さい政府」を標榜し政府の介入を最小限にしようとする、新自由主義。日本では中曽根内閣の国鉄民営化はその先駆けで、郵政民営化の小泉内閣がその典型。
しかし新自由主義論者の「構造改革」、規制緩和は単純に間違い。足かせが多いがために飛び立てないのならば規制緩和も意味があるかもしれない。風船を縛っていた糸を離せば風船は空に舞い上がる。しかし、しぼんだ風船ならば地に落ちる。
アベノミクスは一見すると、かってのケインズ的政策への復古とも見える。だがそうではない。インフレや財政赤字というケインズのマイナス面を拡大し、社会保障基準の引き下げや労働規制緩和など貧困を拡大する新自由主義の毒とを併せ持ったキメラがそれ。
参考外部リンク:
1.竹中平蔵氏と労働規制緩和(2013年02月10日 熊本日日新聞)
2.ケインズ先生の大失敗
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お金の回りかた
「会社は利益を出している。その利益が配当に回っている傾向はない。給与にも回ってもない。利益はどこにいっているのか。会社の内部留保になっている」と麻生太郎財務・金融相は述べた(JCASTテレビウォッチ)。
このグラフからは、いろんなことが見える。企業の業績は賃金の多寡になんの影響もない。大企業の利益は1998年のバブル崩壊以降も概ね上昇を続けている。いっぽう賃金は確実に減っている。
この間のデフレ不況で寂しくなっているのは庶民の懐だけで、大企業は潤っている。これでは消費不況は解消しないだろう。
ところで着実に増えている内部留保とはなにか。企業はその収益を本来は出資者(株主)に還元するか、一部はそうせずに再投資して事業の拡大のために使う。高度成長期にはそうしてきた。最近は新たに設備投資しても物が売れない。それで使い途の無い金が内部留保として滞留する。いうなればダブついた金が内部留保だ。
いまや内部留保の総計260兆円にのぼる。世界一金がダブついている日本経済で、いくら金融緩和をしても景気の向上には繋がらない理由がここにある。
円高が是正されて株価が上がり、アベノミクスは成功しているではないかと見るむきもある。思惑による動きとはいえ、異常な円高は是正された。しかし最近の貿易赤字の結果が遅れて現れたにすぎないという見方もできる。円安は輸出企業には追い風だが国全体の資産価値が国際的には下がったとも言える。
上昇株を見ると金融、自動車など輸出企業、公共工事期待のセメントやトラック輸送などだ。保有する外債、株式の含み益で経理上は好転しているかもしれない。しかしそれが賃金や設備投資に反映しない限り、実質の経済回復にはならない。
この続きは『自由主義国家ができること』で。
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米国と比較する日本の外需だのみ
各国の自動車販売台数。いまや世界最大の自動車市場は中国で、2位が米国、3位が日本となっている。(2012年通商白書より、上位3ヶ国のみ取り出した。)
この図を見ていろんなことを思い浮かべるだろう。中国は重要な市場。米国や日本が中国を手放すはずがない。など。
米国の2009年はご存知リーマンショック。だがその後伸びている。同じ時期に日本は縮小している。米国は国内需要を持ち直しているのに対し、日本はますます外需だのみになっていることを示している。
米国のGDPは2011年にはリーマンショック前を回復している(アメリカ経済ニュースBlog)。米国が大幅な金融緩和策で切り抜けたことは知られている。しかし、すでに日本は米国を超える金融緩和を続けてきた(主要国の政策金利の推移図)。その効果が現れないのは日本の場合、国内需要が低迷していることにひとつの理由がある。
関連記事:
物が売れなきゃ始まらない
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「賃金奴隷」の崩壊
さきに私は人口ピラミッドを示して、少子高齢化が社会保障負担の増大にそのまま繋がらないとした。では何が変わったのか。かって終身雇用の時代には、労働者の子女の養育は企業が面倒をみていた。家族手当はその一例。公はそれから外れる高齢者や母子家庭などを看ればよい。そういう分担ができていた。
なぜそういう分担ができたかというと、企業にとってその利益の源泉である労働者が、将来に渡っても存続してもらわないと困る。労働者の子女は将来の金の卵で、それを養うことは企業にとっても必要だったから。対して働けなくなった高齢者は企業には必要ない。これは公に任されたのだった。
そういうわけで少子高齢化は高齢者の生活を保護する公の負担を必然的に大きくする。だが公が面倒みなければならない階層は高齢者に止まらない。
小泉政権以来、非正規雇用の比重が大きくなる。彼らは企業にとって使い捨ての人材となる。終身雇用を賃金奴隷と例えるられるかもしれないが、非正規雇用に至るとすでに奴隷とは言えない。単に市場で買うことの出きる生産器材でしかない。奴隷ならばそれが長生きし子供も生んで殖えてくれると、奴隷主にとって嬉しいではないか。できれば病気などもしないよう大切に使うだろう。しかし器材ならば、古くなったり故障すれば買い換えたほうが経済的かもしれぬ。
高度経済成長から停滞期に入る。終身雇用制は崩れ、労働力の流動化が目指されると、失業者は増え、職にありついても家族を養うには充分でない収入。企業が労働者階級の存続さえ責任を負わなくなった現在、公が面倒を見なければならないのは高齢者と子供たち、加えて増大する失業者と、広範に広がったのは必然の結果だった。
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