生かさず殺さず
麻生財務大臣は「社会保障費の増大は子供を産まないのが問題」と発言したそうだ(2014年12月7日・札幌市内で)。失言のデパート麻生さんだが、まったく見当外れの論とはいえない。日本語を少し間違えているだけで、「子供を産めないのが問題」とすれば当たっている。人口の減少はそのままGDPの減少に繋がるから、財務大臣として、これは問題だ。
「アベノミクス」とやらで一部大企業は空前の利益を上げているが、労働者の実質賃金は減りつづけており、正規雇用が減って、明日の身分の保証がない非正規雇用に置き換えられている。
これでは結婚もできないし、結婚しても少ない収入を補うために共稼ぎしなければならない。ところが子供を預けるところがない。これでは人口が減るのは当然だ。
およそ利益の源泉は勤労者の働きだから、その数が減ることで日本経済が先細りすることは目に見えている。
「女性が輝く社会」とかで女性を働かせることで当面を凌ぐことはできても、保育の環境を十分にしなければ子供を産めないだろう。日本の教育費が世界1嵩むことも要因になっている。
徳川家康は百姓を「生かさぬよう殺さぬよう」と言ったとか。年貢を取りすぎて農民が飢えて死んでは元も子もないし、来年の種もみも残さねばならない。そのことを戒めた言葉とも思われる。江戸時代の為政者のほうが、現在の日本の支配者層よりも賢かったのではないだろうか。
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馬車馬のように
「馬車馬のように働く」という言葉があるが、じつは馬車馬は1日に8時間以上は働かせない。それ以上働かせると寿命が短くなるから。ある人が言った。
「この国では、過労死するほど仕事があり、自殺するほど仕事がない。」
私はいつも思うが、残業を規制すれば 4%程度の失業率など一気に解消する。
日本でのメーデーは 1920年が初回(写真)。戦時下の中断を経て今年は第84回目となる。
メーデーはシカゴなどで8時間労働制を要求した闘いがその始まり。いまやそれが当たり前になっている世界で、ILO第1号条約(8時間労働制)をいまだ批准しないわが国では長時間労働がまかり通っている。世界の趨勢に対して日本はどのくらい遅れているのか。
シカゴで8時間労働制を要求してストライキに立ち上がったのが19世紀末の1886年。ソ連で8時間労働制が定められたのが 1917年。ILOが第1号条約(8時間労働制)を採択したのが 1919年。
日本は戦後の1947年、労働基準法で原則8時間労働としたが、その36条で労働組合もしくは「労働者の過半数を代表する者」と協定すれば、これをほぼ無制限に延長できるとした。21世紀のいまも、あらゆる職場で過労死するほどの長時間労働が蔓延している。じっさいこの国は世界から1世紀以上遅れている。これがGDP世界第3位を誇る国の実態。
参考リンク:
1.労働基準法
2.1919年の労働時間(工業)条約(第1号)(ILO駐日事務所)
3.ILO一号条約 日本が批准していないのは?(赤旗 2003.4.23)
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生活保護が特権となる理由
まじめに働いているワーキング・プアよりも、働かぬ生活保護受給者のほうがマシという非合理はなぜ起きるのか。建前で言うと2007年の最低賃金法改正(2007/11/29 J-castニュース)で、最低賃金を上げる方向でこれを是正することが決まっている。また働いている、あるいは年金収入があっても生活保護基準より低ければ、不足分は生活保護で補われる。なので制度上は、働いている者が生活保護受給者より困窮することはあり得ない。
財界の抵抗で最低賃金のアップは充分でない。そこで逆に生活保護支給基準のほうを下げるのが安部内閣(産経 2013.2.28)。この生活保護支給基準は、日本の所帯を所得の低いほうから並べて10%のレベルを目安としている。そうすると理屈の上で総人口の10%、その数1,200万人が保護対象者となるはずだ。ところが、じっさいの受給者は200万人。1.6%でしかない。
いまここに生活困窮者6人が居たとすると、生活保護を受けているのはそのうち1人。あとの5人はそれを羨ましく見ているだけということになる。受ける権利を知らずにいる人も居るだろう。しかし窓口に相談に行っても追い返されるケースが多い(参考1)。2012年札幌で餓死した姉妹は相談窓口に何回か足を運んでいるが、申請書すら渡されていない(参考2)。生活保護を受けるには、本人に根性があるか、議員の紹介あるいは支援する団体の後押しでもないと難しいという実状となっている。困窮者6人中、生活保護を受けられるのは1人。それが最貧困者とも限らない。これが生活保護が特権に見える理由。
生活保護の不正受給など制度が悪用されることがある。しかし不正受給とは言えないものまでバッシングを受けている例も多い。たとえば2012年に話題になった有名芸人の母親が生活保護を受けていたという問題も、当の芸人から母親への仕送り額などを福祉事務所と話し合っており、不正でもなんでもない(参考3)。大阪市は警察官OBを含む不正受給専任チームを置いている。悪質な貧困ビジネスの摘発などは成果と言える。だが不正受給でないものまで「摘発」するという事例もある(参考4)。
兵庫県小野市は、生活保護費や児童扶養手当をギャンブルで過度に浪費することを禁止し、浪費を見つけた場合、市民に情報提供を求める条例を作った(参考5)。生活指導はケースワーカーの仕事で、条例化する必要性もないし、市民監視をさせるというのも恐ろしい。
生活保護費のうち不正受給の割合は金額で0.4%。これは摘発されたもので、じっさいはもっと多いという論もある。しかし、対象者であるはずなのに支給を受けていない人数は500%。市民監視をするならば、恩恵を受けていない人々を見つけ出し救済することのほうが、むしろ必要ではないか。
関連記事: 生活保護は誰のため
参考リンク:
1.北九州市役所、水際作戦… (2009/06/09 奈良たかし 生きてるしるし)
2.札幌市姉妹「餓死」… (2012年6月3日号「守る新聞」全国生活と健康を守る会連合会)
3.お笑い芸人の“生活保護”事例は… (2012年07月25日 HIRO さんのブログ)
4.不正受給扱いが撤回された事案… (2013年3月4日 生活保護問題対策全国会議)
5.「生活保護パチンコ禁止条例案」に異論噴出 (2013年03月04日 産経)
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生活保護は誰のため
政府は生活保護基準額の見直しで3年間で約670億円削減する方針(参考1)。日本の生活保護費は3兆円を超えている。だが諸外国と比べてみると…。英国などに比べ米国はその1/4、日本はそのさらに半分でしかない。(「あなたの暮らしも危ない?誰が得する?生活保護基準引き下げ 」日弁連 2012年11月 作成のパンフより)生活保護基準額を引き下げると、生活保護対象者に限らず低所得者層の広く影響が及び、消費不況をさらに深刻化させる(参考2)。いっぽう景気対策として公共投資を今後10年間で200兆円を投じるという(参考3)。「財政赤字を増やしてでも景気対策」。「財政赤字を減らすため社会保障を削減」。矛盾してないか。
奇妙な質問だが、生活保護費は誰の懐に収まるのだろう。もちろん受給者に決まってる。だが、貧乏人はそれをすぐに使ってしまう。使わずには生きていけない。なのでその金は貧乏人の財布に落ち着いていることはない。「金は天下の回りもの」というわけだ。対して金持ちは余分なお金は貯め込むか投機などいらぬところに使う。実体経済に寄与しないばかりかバブルという弊害を与えることもある。
生活保護に使おうと公共投資に費やそうと、それで民間経済は潤う。問題は上から注ぐのと下から注入するのとどちらが効果的か。「大企業が儲かれば下請け企業、社員に、やがて小売業へと経済が循環する」という図式は高度成長期の幻想。『お金の回り方』でここ25年間の実績に見たように、その利益は大企業の懐に止まるだけ。
「生活保護を手厚くすると、みんな働かなくなってしまう」との議論がある。それは要らぬ心配。荒っぽい言い方を許してもらうと、いま働き手は余っている。完全失業者は約300万人。いっぽう、働ける世代を含む「その他の所帯」は30万に満たない。これには働いてはいるが所得が少ないために生活保護給付を受けている者も含まれる(参考4)。逆に働いても生活保護基準以下という状況こそ克服されるべきではないか。
参考リンク:
1.社会保障「自助・自立を第一に」具体策は参院選後 (産経 2013.2.28)
2.「生活保護費引き下げの影響」 玉突き式に他制度と連動も (産経 2013.2.11)
3.安倍新政権20兆円緊急経済対策 赤字だけが残る懸念ぬぐえず(週刊ダイヤモンド 2013年1月15日)
4. 働き盛りの生活保護は本当に許されないのか (みわよしこ、週刊ダイアモンド 2012年7月27日)
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自由主義国家ができること
アベノミクスによる円高是正や大型公共投資期待で株価が上がっている。庶民にとって気になるのは、それがいつ給料に反映するか。前の記事『お金の回りかた』の続き。安倍首相「経済界にとっても一日も早くデフレ脱却をすることはプラスですから、「賃上げを全然しませんよ」という態度ではなくて、われわれの政策に協力をしてもらいたい、利益が出るという見通しの中では、従業員に還元していただきたい」。日本共産党笠井亮衆院議員の質問に(2013年2月10日 赤旗)。そして安倍首相は、サラリーマンの給与引き上げを、経済3団体のトップに直談判(2013.02.13 zakzak)。
米倉経団連会長はベースアップにはゼロ回答。ボーナスも「業績が良くなれば」という条件付き(2013年02月12日 ロイター)。景気回復が本物になり、給料にそれが反映するのはまだ先のようだ。逆にTPPや労働規制緩和などを首相に要請している(2013/2/12 日経)。
ところで、企業の業績が良くなれば給料も上がるというのは本当だろうか。さきの記事の図を再掲。
実績を見る限り企業の業績は賃金の多寡になんの影響もない。2002年〜2006年にかけての好況期にも賃金は横ばいもしくは下降している。2008年のリーマンショック以降はさらに低下。いっぽう大企業に限ってはちゃんと利益を確保しており、配当も低空ながら維持。内部留保は着実に積み増ししている。
どうして賃金に回らないのか。笠井議員の質問に対して安倍首相も麻生副総理も企業の「マインド」と繰り返した。麻生副総理は「共産国家ではないので強制はできない。我が国は自由主義国家ですから」と口を滑らせた。この発言は笠井議員にたしなめられ、安倍首相が撤回するという一幕も。
麻生副総理の「共産国家ではないので」発言は、ある意味正しい。資本主義の下で賃金は市場論理、需要と供給とで決まる。高度成長期の日本は経済の急成長に対して働き手が少ない「売り手市場」だった。企業は終身雇用を約束し、家族手当や手厚い福祉などで労働者を確保し繋ぎ止めた。今はそういう時代でもない。低賃金や過酷な労働条件で従業員が止めても、代わりはいくらでもある。失業率が高い中でも求人広告満載の理由は、労働者を使い捨てにする時代というのもある。
お願いして改まるという問題ではない。自由主義経済を採る限り、やむを得ない。とはいえ方法はある。たとえば法定の最低賃金を上げる。資本主義の本山とも言うべき米国でさえオバマ大統領は一般教書でこれを提案している(2013/02/13 ブルームバーグ)。ボーナスを上げるというローソンだが(2013年2月8日 東京新聞)、対象は正社員の一部。コンビニの店員はほとんどがバイトで、恩恵がない。最低賃金のアップは最低賃金スレスレで働いている彼らを全企業・全産業で底上げするので効果は絶大。
馬車馬のように働くという言葉があるが、じつは馬車馬は1日に8時間以上は働かせないそうだ。そうしないと寿命が短くなるからだという。過労死が絶えないいま、残業の禁止も急務。労働基準法第32条では一日8時間を超えてはならことを原則としているのに、さまざまな例外規定で残業を許している。残業を規制して労働時間を短縮することは、労働者の健康を守るだけでなく、雇用の創出にもなる。数%程度の失業率は残業規制だけでも解消してしまう。
以上、労働規制について2つだけ例を上げた。これらは資本の自由を制限するものとして新自由主義者たちが嫌うものだ。しかしこれらの制約を加えなければ「自由主義経済」そのものが成り立たないとして先人たちが作り上げたもの。いまこそこれが重要となっている時代ではなかろうか。
関連記事:
1.お金の回りかた
2.飛べないキメラ
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