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「原子力は夢のエネルギー」

大飯原発の耐震性は余裕なのか - ストレステストの内実

31 Jul 2012

「原子力は夢のエネルギー」
そう、そしてそれは悪夢だった……。

ストレステストの読み方

日本共産党の井上哲士議員が2012年3月9日の参議院決算委員会での質問のさいに使ったフリップのひとつ。 左は大飯原発の今回のストレステスト(一次)の結果。右は2007年中越沖地震での柏崎刈羽原発での実測値。

ストレステストの結果を信じるとして、ここに 1,699ガルの揺れがきたら、重大事故に至る可能性は高い。 その読み方は正しい。

では逆に、揺れが 700ガルに収まってくれたなら、重大事故は起こらないのだろうか? この質問は奇妙に聞こえるかもしれない。「当たり前でしょう。結果を信じるのなら。」 いや、そこをどう読むかということが問題。 すでに書いた「原発設計の余裕」と重複するけれども、ここに改めて書く。 結論から言うと、この計算結果は「 1,260ガルまでの揺れなら重大事故には至らない」ということではない

何のための余裕か

想定の揺れは 700ガル。いっぽう重大事故に繋がる揺れの限界点は 1,260ガルで、1.8倍の余裕がある。 この「余裕」とは何なのか、技術者ならその意味は容易に分かる。 これは計算と現実との合致ぐあいが分からないために、こういう余裕を取るので、技術用語では「安全率」と呼んでいる。

あなたが設備設計などを経験する技術者ならば、地震に対して 1.8倍という安全率は小さいと感じるのではないだろうか。 普通なら4倍くらいを狙わないか。 じっさい、津波のほうの余裕は計算すると 4倍になっている。

実を言うと、大飯原発3,4号機の設計時の想定は 700ガルではなく、405ガルだった。 このとき安全率は 3倍程度だった。 ところが 2006年の耐震基準改訂やその後の中越沖地震を受けての見直しで、想定する揺れの数字は 405 → 600 → 700と上がってきた (*注1。 それに対する耐震強化策は、限界値を 1225 → 1260 と、3%向上させたにすぎない(*注2。 結果、余裕の部分がなくなってきた。 それが実状ではないだろうか。

想定する揺れを 700ガルとしているが、地下断層の見直しで 760ガルという参考数字も出ている。 「いずれにせよ限界点 1,260ガルを越えないのなら大丈夫」とは言えない。「持つかもしれないけど、壊れるかもしれない」というのが正しい答え。 あなたがまともな技術者ならば、「かなりヤバイかも」と感じるだろう。

落ちるはずのないエレベータ

2011年7月28日、 東京メトロ平和台駅でエレベータを吊るワイヤーロープが切れて落下する事故があった (2011年7月29日 国土交通省)。 幸いに非常ブレーキで止まったが、サスペンス映画にありそうな、恐ろしい話である。

こういう事故はあってはならないので、普通どういう設計をするかというと、 ロープに掛かる最大荷重を計算したうえで、その3倍程度の強度のロープを、さらに2本以上使う。 (合計の安全率は10倍欲しいところだが、法的な最低基準は5倍。報告によれば当該エレベータでの安全率は8.2倍だった)

なぜそういうことをするかというと、計算上の強度と実際のロープでは材質や出来栄えで違いがあるかもしれない。 また使用中にサビもすれば劣化もする。もちろん定期点検などで保守するとしても、抜けがあるかもしれない。 それでも1本が切れたらさすがにそれは分かるので、そのときに交換すればよい。 2本切れたとしても、最後の1本で充分に支えきれるはず。
(参考: 「エレベーターの自由落下は、フィクションの世界でしか起こりえない。」三菱電機株式会社執行役副社長, 2004年。 - ちなみに事故の起きた平和台駅のエレベータは三菱製)

それでも事故は起こる。このとき3本すべてが同時に切れた。乗客は1人だった。 (事故調査報告書 2012年1月12日 国土交通省)

ストレステストの使い方

ストレステストが無意味だとは言わない。 しょせん計算は架空のものであり、現実ではないことをわきまえたうえで使えば有用なものだ。 とりわけシステム中でどこに弱点があるかなどを把握するのに大いに役立つ。 ただ、「これで安心」とする材料には決してならない。 また、「余裕=安全率がどれだけあれば安心できるのか」にも答えはない。 そもそも安全率の存在する理由が「計算と現実との合致ぐあいが分からない」からだということを思い起こして欲しい。


*注1:「大飯原発についての設置当初の基準地震動は四百五ガルでございました。平成十八年九月の耐震設計審査指針の改訂を受けて、これを六百ガルに引き上げました。それから、その後耐震バックチェックを経て、平成二十一年三月、七百ガル、これは断層の連動も考慮すべきということで七百ガルに見直しております。」 (2012年7月10日 参議院予算委員会議事録) (2009年3月 原子力安全・保安院「原子力発電所に関する耐震バックチェックについて」PDF資料)

*注2: 関西電力から経済産業省に提出された資料の2つめ (添付資料 1-1 「…一次評価結果と安全確保対策について」(PDF形PDF)

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