橋下徹の政治手法を「独裁」と呼ぶのは止めよう。それは「恐怖政治」と呼んでよい。
「まさか大飯がねえ。」と、私には意外だった。 全国の原発が再稼働できない中、その口火を切るのは九州電力玄海原発のはずだった。 なぜかというと九州電力は地元を押さえていて、玄海町長などは原発利権を吸う地元建設業「岸本組」の一族という始末。 全国が嫌がるプルサーマル運転の第1号も玄海原発だった。 ところが、九州電力による、いわゆる「やらせメール」が日本共産党に持ち込まれ、その後原子力安全・保安院も絡んでいたいたことが発覚。 再稼働の夢は玄界灘へ藻屑と消えた。昨年の夏のことだった。
大飯原発の地元福井県は利権で押さえられたとしても、地形からいって至近の京都府や滋賀県は黙っていない。 いわゆる「地元理解」がもっとも得られそうにないのが大飯原発と、私には見えた。
「まさか橋下市長がねえ。」と、思った人もいるかもしれない。 彼の脱原発は口先だけと、かねてから知っている私にとって、彼の再稼働容認は驚くものではない。 しかし環境擁護を旗印に知事になった嘉田由紀子・滋賀県知事の変節が意外だった。 関西広域連合の寝返りの顛末について参考リンクに挙げた「福島原発事故メディア・ウォッチ」のものが詳しいが、 そのことは多くの県民も、また海外メディアにも関心があると見える。 6月13日、日本外国特派員協会の求めに応じて嘉田知事が答えている (そのときの映像)。 それから少し時間が経ったものだが、毎日新聞の記事の一部を紹介する。
関西電力大飯原発の再稼働問題で言動が注目された滋賀県の嘉田由紀子知事が毎日新聞の単独インタビューに応じた。 今夏限定での再稼働件容認に転じた理由を「経済界からの要請が強く、追い詰められていた」などと語り、夏の関電の節電目標が縮まらなかったことや、橋下徹大阪市長が限定再稼働に“後退”したことが「誤算だった」と明かした。 (2012年6月23日 毎日 大阪朝刊)
覚えているだろうか? 「夏限定」の稼働を言い出したのは橋下である(2012年5月19日 毎日新聞)。 反原発の民意と再稼働を願う財界との間の板ばさみに困っていた京都府知事や滋賀県知事にとっては、うまいアリバイ作りになるわけで、この助け船に乗ったということだ(2012年5月30日 関西広域連合「原発再稼働に関する声明」)。
橋下は大飯原発の再稼働にあたって「実際に停電になれば自家発電機のない病院などで人命リスクが生じるのが大阪の現状だ。再稼働で関西は助かった。おおい町の人たちに感謝しなければならない」と、のたまわったそうだ(2012年6月16日 産経)。
本気ならばやることはあるだろう。 人が死ぬかもしれないというのならば、計画停電をちらつかせる関西電力を殺人予備罪で告発するべきだ。 2012年8月7日落雷で大阪府下7,000所帯で最長2時間49分の停電があった。そういう危険は普通にある。 自家発電機のない病院には三菱自動車なり日産自動車からEVでも借りて配備すればよい(大阪府:大阪EVアクションプログラムについて、2012年7月3日 日産自動車プレスリリース)。 本気でないのなら、人命を盾に取った、ヤクザまがいの脅し。まあ、野田首相も同じ論法だが(2012年6月8日 大飯原発再稼働を判断した記者会見など)。
配下の大阪府市エネルギー戦略会議は今夏の電力は足りているとしていた。 にも関わらず橋下は政府の出した数字、「15%不足」の方を採った。なぜか。
「まさか橋下がねえ。」じゃなくって、橋下だからこういう狡猾な詐欺師まがいのことができたのだ。 橋下は 4月20日に関西電力が会長役を務める関経連幹部と公式に会っているが、その席で夏の電力事情のことも原発のことも話題に上らなかった。 会談のあと橋下は記者団に対し「(原発問題は)あそこの場でするような話ではない」と述べ、「表できちんと問題提起をする」と語ったという (2012年4月20日 ロイター)。
ところがなんと、橋下は関西財界と5月15日に「お店で会合」(橋下徹:自身のツイートでの表現)、 そのさい「別室で」(同ツイート) 森関経連会長(関電会長)と再稼働問題を話し合ったという。 限定再稼働はこのときに橋下が提案したとのこと。(2012年6月18日付で朝日朝刊と、同日付の橋下徹ツイッター。参考リンク「こうして大飯原発再稼働推進が決められた」に纏められている。) 宴会政治のそのまた別室という、文字どおり「裏で手を握って」いたのだった。
騙されてた人は多いと思うけれど、もともと橋下が言っていたのは「脱原発」ではなく「脱原発依存」。いまの野田政権の公式見解と違いはない。 それを朝日新聞をはじめとするマスコミが、まるで反原発の急先鋒みたいな幻を勝手に作ったのだ。
依存度を下げていくということは、しっかりとそういう方向性で、計画というものを関西につくっていきたいと思います。 ただ、原子力発電、原子力の技術は、日本の安全保障といいますか、防衛力にも関係することなので、全くそういう技術というものをゼロにしていいのかというところは、もう少し慎重に--技術ですね、原子力の技術自体は日本に残しておかなければいけないんではということは、安全保障上考えなければいけないんじゃないかというふうに思っております。 (橋下徹: 2012年10月3日 大阪府議会 平成23年9月定例会本会議 議事録 P.168, 日本共産党宮原威議員の質問に答えて)
「安全保障」という言葉が出ましたねえ。 分かる人には分かると思うが、そう、橋下はれっきとした核武装論者なのです。