「原子力は夢のエネルギー」
そう、そしてそれは悪夢だった……。
はて、何のことでしょう? 原子力に頼る日本の現状に対し、「原発は要らない」それが「対案」ではないか。 もしかして、「原発なしで、この豊かな文明生活を維持できるのか」とでも言いたいのでしょうか。
「この豊かな文明生活」をいま壊しているのが原発ではないか? 2011年の日本経済が押し下げられるとしたら、その原因の半分あるいはそれ以上が福島の原発事故に依るものだろう。 福島の事故が収束したとしても、浜岡原発だけを止め、他所の原発では事故が起こらないことを祈りながら暮らすならば、その「豊かな文明生活」というのはどういうものか。
「原発なしでは日本経済が成り立たない」というなら、それが日本の実力であって、原発で成り立っていたと思うのは幻影にすぎない。 まずはその悪夢から目を覚ますことが先決で、それからゆっくり考えても構わない。
2011年5月度の日本の原発の稼働率は40.9%(日本原子力産業協会調べ)。 すでに原発の無い日本への実験が半ばまではされているようなもの。 あと一歩進むのがそんなに怖いですか?
たとえば15%の節電がどれほど深刻なのか受け止め方はいろいろだろう。 でも1970年代に何度かあったオイルショック時にも同じような危機はあったが乗り越えてきた。 かって東京電力による原発トラブル隠し(ウィキペディアの記事) が発覚した翌年の2003年、東京電力は総点検のためすべての原発を止めたことがある(東京電力のプレスリリース)。 停止は長期にわたり、2003年8月15日時点でも再稼働できたのは17基中の5基だった(東京電力のプレスリリース)。 また2008年は新潟中越沖地震の影響で柏崎刈羽原発の全号機が停止している(東京電力のプレスリリース)。 これらで停電には至っていない。
今年(2011年)は地震と津波により火力発電所も多くダメージを受けていて、 原発が止まっていることが原因のすべてではないのだが、ともかくも54基の原発のうち10数基しか稼働しない下で日本はこの夏を乗り越えることができるだろう。 そうすると原発ゼロも、それほど非現実的な話でもないことが分かるに違いない。
地震直後の3月下旬に東京電力管内で計画停電が行われたのは、 原発だけでなく火力発電所もダメージを受けたこと、東北電力から電力融通できないことなどが重なったもの。 原発が運転を始めたわけでもないのに計画停電は行なわなくなったことからも、原発の停止が主要因ではないことが分かる。
もちろん季節的な要因があって、夏場には電力消費のピークを迎える。 一般的に各電力会社は予想される需要のピークに対し、供給予備力として10%程度上回るよう設備を持つこととしている。 それを適正とすればその一部でも停止すれば予備力は低下し、「足りない」とされるのは当然だ。 遊休の火力や揚水発電の再稼働や、大口需要家が持つ自家発電の稼働の依頼や電力購入などの手段が採られるだろう。 かつ節電しても足りない分が予備力の食いつぶしとなる。
ところで日本の電力の1/3を原子力がまかなっているというけれども、設備能力としては20%程度となる。 したがって原発の半分以上が止まっているという現状は、その予備分を食いつぶしているだけのこと。 今年の夏が過去の猛暑を超えず、すべての発電設備が健全であるという幸運なケースでは、 節電が成功しなくても乗り切れるはずで、 10%ほどピークをカットできれば原発ゼロも一時的には可能という計算になる。
(原子力安全基盤機構「原子力施設運転管理年報平成22年版」より) BWR型は中国電力、東京電力など主に東日本で使われている。 この期間はこれらの地域でとくに成績が悪い。 |
安定した電力供給を言うとき、このピーク需要をまかなう設備能力の問題と電力価格の問題とがある。 これまで「原子力が安定した電力供給を担う」としたのは、そのどちらの面でも幻想だった。
いま何を大騒ぎしているかというと、大地震と津波で原発が止まり、復旧の見込みさえつかない。 定期点検で止めた原発も安全基準に不安があり再稼働できない。あてにしていた原発からの電力があてにできなくなったということだ。
原発についてこのようなことはいまに始まったことではない。 13ヶ月運転して定期点検に2ヶ月かかるとすると稼働率は87%と計算されるが、日本の原発は40年を超える歴史の中でそのような高い稼働率(出力も加味したものは設備利用率)を出したことはない。 近年でいうと、東電による原発トラブル隠しが発覚した翌年の2003年や、 新潟中越沖地震のあった2007年と翌年で60%を切っているし、その他の年でも近年は70%前後というところ。 原発は不測の停止が多い、あてにならない設備なのだ。
いわゆるオイルショック以降、石油の供給不安や価格変動が懸念された。 そののち火力発電の燃料は石炭や天然ガスへと比重が移っており、当時より影響は減っている。 とはいえこういった化石燃料はいずれは枯渇するだろう。しかしウラン鉱石が枯渇するのは石炭よりも早いと見込まれているし、 地球上のウラン鉱石は石油以上に偏在しているので、 それを理由に原子力が優位とするのはよく分からない話だ。
発電コストに占める燃料費の割合が火力に比べて原子力では圧倒的に小さいということなのだが、 言い換えると設備の建設と維持、その他のコストが大きいということ。 安全対策を求めればその費用も増大し、使用済核燃料など核のゴミの処理など、 それがいくらかというのは現在は見えないのではないか。 現に福島の事故対策の費用をいったいだれが負担するのか、東京電力がそれを負担するといっても、 けっきょくは電力価格に反映されるのではという懸念があるではないか。
そうすると「原子力は低コスト」だとか「電力の安定供給に寄与」というのは幻想だったということになる。 まずその幻想を打ち払わなければ、 「火力発電の燃料の確保や価格の問題をどうするか」とか「新エネルギーを進めるコストはどうなる」とかいう議論は始まらない。
12 Jul 2011 加筆
定期点検中の原発を再稼働できない状態が続くとどうなるか。
右図赤線のように、来年6月までに日本国中の原発がすべて止まってしまう。
2011年6月24日、日本エネルギー経済研究所はその影響の分析結果を発表した
(「原子力発電の再稼動の有無に関する2012年度までの電力需給分析」)。
来年2012年夏は原発ゼロで越さねばならないとすると、12.4%の節電が要請され(予備率5%を含む)、また年間の化石燃料コストは対2010年比で3.5兆円増大、家庭の電力代は所帯あたり1,000円以上嵩むという。
このレポート、電力会社の言い分をただ集めたように見え、自家発電などの分析はない。 電力需要は2010年推定実績の2%ダウンを予測しており、2010年が記録的猛暑だったことを考え合わせると、実質需要は変わらないとするもの。 そのことを踏まえて節電の必要量12.4%という数字を見ると、原発ゼロでは立ち行かないということもなさそうだと私には見える。 自家発電は2010年9月末現在 5407万kWで、原発の発電能力をはるかに超える。 今年2011年の経験から各企業のピークシフトや節電、自家発電の増強、各家庭での節電の進行などで、来年2012年の電力需給の深刻さは軽減されると思う。
コストアップ3.5兆円の数字は対2010年であって、原発を動かしたとしても 0.8兆円増大という数字も見えるから、動かした場合と動かさない場合との差は 2.7兆円。 また石炭の稼働率を85%、LNGの稼働率を70%に留め置いて、代わりに石油を燃やすという仮定も不自然だ。
この種の議論で気になることは、では逆にいままでどおり原発を動かしたら、そのコストやリスクがどうなるかの議論を欠いていること。 いま原発を動かすには、住民が安心できる安全対策が求められる。しかし、その内容はどういうもので、要するコストはどれだけかは分からない。 運転により作り出す核のゴミ(死の灰)の問題、運転中のリスクなども分からない。 分かっていることは、フクシマ以前よりも以降では、原発を運転するコストは確実に増大しているということだ。
5 Aug 2011 加筆
2011年7月29日、国家戦略室は第2回エネルギー・環境会議を開催した
(国家戦略室のページ)。
そこで今夏〜来年夏の電力需給を分析している。
電力需要を猛暑だった 2010年をベースにしているなど、さきの日本エネルギー経済研究所のレポートよりも悲観的な試算をしているが、危機管理ということではそれでいいのだろう。
少し期待したが、需給動向の分析では新味なデーターは出ていない。
対策のほうでも同様で、相変わらずストレステストで「安全性が確認された原子力発電所の再起動を進める。」そうだ。