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「原子力は夢のエネルギー」

亡国企業は日本を去れ

16 Sep 2011 追記 (26 Jun 2011 初出)

「原子力は夢のエネルギー」
そう、そしてそれは悪夢だった……。

関西経済5団体の緊急要望と安全神話

2011年6月24日、関西経済連合会、大阪商工会議所、京都商工会議所、神戸商工会議所、関西経済同友会は連名で、『電力の安定供給にかかわる緊急要望』を関西電力に申し入れた。 (1)実効性のある節電のための細やかな情報提供(2)中小企業に特段の配慮を求める(3)安全で安定的な電力を中長期で確保—の3点を要望した (関西経済連合会のページ)

また、大商の佐藤茂雄会頭は関電の八木誠社長に対して「安全神話を復活させてほしい」と述べ、停止した原子力発電所の再稼働に向け期待を示した。 要望書は節電情報の提供について11行、中小配慮には2行のみの記述だったのに対し、電力安定については19行に及んだ。(日本経済新聞2011年6月25日付け朝刊)

いまどき「安全神話」の言葉が出るのは耳を疑う。 原発の安全が「神話」ではなく実話であって欲しいというのが真意で、記事は記者の早とちりなのではないかと、私は最初思った。 関経連のホームページから入手できる要望書全文 (PDF資料) を読むと、この「安全神話」発言は記者の早とちりではなさそうだ。 この要望書 は、原発の安全性について地元への説明は求めているものの、 安全対策の強化への要求はいっさいない。

考えてみれば、当面の安全対策は済んだとする立場だから、さらなる対策は求めないのは当然なのかもしれない。 そもそも関経連の会長は関西電力(森詳介関西電力会長が2011年5月25日関経連の会長に就任)だから、現在の対策が不十分とは口が割けても言えない。

2週間で安全は確保されたのか

これに先立つ2011年6月10日、同じ関西経済5団体は政府に対し『電力需給と風評被害にかかわる緊急提言』 (PDF資料) を提出した。 この提言でも原発の運転再開を求めているが、ここでは「安全確保を前提」としており、 「具体的には、福島第1原子力発電所の事故の原因が地震なのか津波なのかの評価や高経年化の影響があったのかどうかの評価を踏まえた安全基準の提示」などを求めている。

その後どういう進展があったかは、2011年6月14日関西電力のプレスリリースを見るとよい。 地震対策についても、高経年化の問題についてもいっさい触れられていない。政府から求められていないから。

経団連の米倉弘昌会長は6月20日の記者会見で、 「政府の責任で安全基準を見直し、再発防止を徹底するという基本条件は残念ながら満たされていない」としている (経団連タイムス No.3046 2011年6月23日)

これまでの安全基準が不備なのは明らかだ。 原子力安全委員会は2011年6月22日、「安全設計審査指針」と「耐震設計審査指針」の見直しに着手した。 これに反映させる材料を提供するべき福島第1原発事故調査・検証委員会は2011年6月7日に第1回会合を開いた。 6月17日には初の現地視察も行っている。 しかし事故は現在進行中で、装置周辺には近づくことすらできない状況だ。 東電工程表では冷温停止を年内10月〜年明けとしている。

「安全点検を終えた」とする原発も、依って立つ安全基準が信用ならない状況は当分続く。 今後、安全を前提に原発を続けるのか、段階的あるいは直ちに脱原発するのかの議論は続くとしても、 現実的には来年春までに全国の原発すべてが止まってしまう事態となる可能性が高い。

それでは困るので、適当な「緊急対策」を挙げて、それを実施したことをもって「安全宣言」する。 これまでも根拠のない安全神話で騙せたのだから、今回もそれで地元を説き伏せようじゃないかということか。 しかし、もうそんな騙しが通用する状況ではないと思う。 6月24日の「緊急要望」が関西経済界の総意であるとは信じたくない。

巻き添えを食うのは誰か

電気がなくなるのと命がなくなるのとどちらを選ぶかというと、命を採るのが普通の人間だろう。 ところが企業の中には電気が命というのもあるらしい。 だからといって、活断層の走る若狭にある建設後40年を超えた原発を不安のまま動かして良いのか (現在定期点検を終えたとして再稼働を待つ原発は関西電力美浜1号が41年目、高浜1号37年目、大飯1号33年目、日本原電敦賀1号41年目など)。 巻き添えになるのはごく近傍の住民だけではない。 若狭の原発群から琵琶湖まで30kmだ (京都民報Web 2011年4月4日)。 ひとたび事故が起これば影響は関西一円に及ぶ。

電気がなければ企業は存続できないと考えるならば、自家発電などの手立てを考えるほうが得策と思える。 関西電力が頼りないと思えば、たとえば大阪ガスという選択肢もある (大阪ガスグループの電力事業)。 それも嫌なら日本を出ていけばいい。 もともと原発を機嫌よく動かしていた頃でも日本の電気代は高かったのだ。 原発が怖くないのなら韓国へ行けば電気料金は日本の半分。おまけに地震もない。 同じように電気料金が安く地震のないフランスもいいだろう。代わりに賃金は日本の倍か3倍払わなければならない (最低賃金の国際比較)。 もともとエネルギー大量消費型産業で働く人間はたくさん必要ないので、それらが退去したとて国内の雇用情勢が大きく変わるわけではない。 エネルギー消費が少なくなれば関西も少しは涼しくなるというものだ。

工場を韓国に移すならいまのうちだ。 若狭に14基ある原発のうちのもし一つでも、大事故でなくとも放射能漏洩を起こしてからだと、韓国世論は敏感だから、立地も難しくなるだろう。 遠い福島の事故でも、また関西の工業製品さえ、諸外国との商談が難しくなったことは経験済みのはず。 過去に若狭湾では、国際原子力事象評価尺度レベル2に相当する事故が1991年3月12日美浜2号で、同年9月6日美浜1号で起こっている。 また2004年08月09日、放射漏れはなかったためにレベル1に評価されているものの、美浜3号機で作業員5名が死亡する大事故があった。

16 Sep 2011 追記
韓国も必ずしも電力は安定していないようだ。 2011年9月15日、ソウルを含む韓国のほぼ全域で大規模な停電があった。厳しい残暑のよる電力需要に供給が及ばなかったという (2011年9月15日 共同)

関西電力に頼らない自治体庁舎

1 Jul 2011 追記
関経連の話ではないが、今日のMBSテレビのニュース番組VOICE で、 関西電力の節電要請に対応する大阪市や大阪府の節電啓発に関連して、ちょっとおもしろい話を報道していたので追記する。 じつは大阪市庁舎、大阪府庁舎の電力は、もともと関西電力の電力を使っていないという。 また、読売新聞によると、大阪府と奈良県の2府県、大阪、京都、神戸、堺の4政令指都市で大阪ガス関連会社『エネット』から電力を購入しているという (2011年7月1日 読売新聞)。 なので各庁舎での節電は関西電力のピンチに直接の効果はない。 VOICE記者が大阪府の橋下徹知事をインタビューしていた。
記者「このことを知っていましたか?」
橋本知事「もちろん、知っています。でも、府民にエアコンを切ってくれと言っているのに、自分が涼しいところで仕事しているわけにはいかないでしょう。」

別に大した問題ではないが、6月10日に関西電力が15%の節電を要請して以来、大阪府をはじめ各自治体とのバトルが連日注目されていた中で、 こういう情報がこれまでなぜ報道されなかったのか不思議なものだ。報道の不勉強。また、関西電力と激しいバトルを演じていた大阪府などがなぜこれまで触れなかったのか。

4 Jul 2011 追記
その後の報道を見ていると、橋本知事は4日になって、府庁は関電から電気を受けていないのだから節電を止めようとか、いや、やっぱりやるとか揺らいでいる (産経ニュース2011年7月4日)。 いまになってそういうことを言い出すのは、やはりこの事実、記者から指摘を受けるまで知らなかったのだと思う。 だからどうだということはないけれど、そういうベースの情報は周囲の担当者が知事の耳に入れておくべきだろう。 知事を取り巻く組織って、どうなってるんだろうね。

日本を見捨てた企業たち

2 Jul 2011 追記
日本電産の永守重信社長は21日、京都市内で開いた株主総会後に記者会見し、関西電力が発表した15%の節電要請について「受け止めなければならないが、実験設備などを海外に移転することになるだろう」と話した (日本経済新聞2011年6月22日付)

これを書いた日経記者は知っているはずだが、日本電産にこれから海外移転させる工場など無い。 本社はまだ京都にあり、日本を完全に見限ったわけではないのだが、 すべての生産工場はすでに海外に移転済み。

日本電産の京都市内の本社施設と中央開発技術研究所は大阪ガス系の会社から電力を買っている (京都新聞 2011年06月21日)。 海外移転するとしたら、滋賀技術開発センターで行っている寿命試験あたりを、すでにある海外の工場でやるとかいう程度のことだろう。 「電力事情の悪化で企業の海外移転が加速」と大騒ぎするようなニュースではない。
おせっかいながら、電力が安く安定供給が期待されるところというと、じつは限られてくる。たとえばカリフォルニア州は電力自由化のおかげで電気代は安いが停電の危険があるので、止めておいたほうがいい。


出所:OECD/IEA ENERGY PRICES & TAXES
3rd Quarter 2009

電力料金の国際比較

12 Jul 2011 追記
ネットで拾った電気料金の国際比較(右図)。 年度により異なるが、おおむねの傾向は同じ。 原発が機嫌よく動いていたころの日本でも、もともと電気料金は高かったことはすでに述べたとおり。

ここでEUの4ヶ国(英国、ドイツ、フランス、イタリア)に注目する。 フランスはよく知られているように電力の80%を原発で賄い、電力料金はEU中でもっとも安い。 イタリアはその対極で、1987年以来脱原発に舵を切った。電力は10%程度を輸入に頼っており、電力価格はEU中最高。 (参考:「原発の無い国、イタリアでの生活…」ナポリ在住の日本人のブログ)
ちなみに停電に関しては原発の多い英国でも頻繁に起こっており(毎日新聞 2011年7月3日)、フランスでも日本に比べるとけっこう停電はあるようだ。

で、それらの国の失業率を見てみよう。これも年次で変動するが、ここ数年の傾向に大きな変化は無い。 イタリアの失業率はEU中で中位。フランスは最悪。 EUの例を見る限り「企業の海外移転で空洞化が進む」ことに電力料金は理由にならないようだ。

situgyouritu

本当のところ、すべての原発が止まっても停電は起きない→「玄海原発をただちに再稼働しなければならない理由」

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