「原子力は夢のエネルギー」 |
「原子力は夢のエネルギー」
そう、そしてそれは悪夢だった……。
福島第1原子力発電所の事故を受けて2011年6月7日、経済産業省の原子力安全・保安院は電力各社など事業者に対し過酷事故対策を求め、その後各原発への立ち入り検査を実施した。 この結果、過酷事故対策など緊急の安全対策は確認できたとして、6月18日から19日にかけて政府は点検済みの原発の再稼働を地元の理解を求める方針を示した。 現在のところ全国の原発54基中の37基が停止中だが、うち4基は定期点検を終え、再稼働を待っている。
これに対し各自治体は強い反発を示しているのは当然だ。 電力業界と経産省がこれまで原発の安全神話を振りまいてきたことが今回の大事故の誘因とも指摘されている。 その彼らが付け焼き刃の対策で「安全」を宣言したところで、どうして信じられようか。
また原子力安全委員会が作成した安全基準の不備は明らかで、それを改訂した上で安全点検をやり直すのが筋。 しかし福島の事故を教訓にするにしても、その原因究明は調査委員会が立ち上がったばかり。
そもそも事故は現在進行中で、原子炉周辺はほとんど近づけない。 「地震では正常に停止した。その後の津波の影響で冷却ができなくなった」などの説明があるが、 地震によりどれだけの現象がおきたのか、津波が無ければ冷却システムは正常に機能したのか、 水素爆発がどこで起きて何を壊したのか、それすら分からない。
とはいえ現時点で考えられる当面の安全対策について、各原発では対応に大わらわ。これで少しは日本の原発も安全になったのか。 2011年3月11日の「フクシマ」以降も続く全国の原発トラブルを見て見よう。
2011年4月7日に起きた余震で、東北地方の複数の原子力施設で外部からの電源供給が途絶した。 うち東北電力東通原発1号機では外部電源2系統のいずれも途絶。このときの東通での震度は5と推定される。 原子炉は定期点検のため停止中だったが、使用済み燃料プールの冷却のため非常用電源に切り替え。 しかし3台ある非常用ジーゼル発電機のうち2台が使えず、残る1台が動いたものの燃料モレが発見された。 配管の接合部でパッキングの裏表を間違えていたことが後の調査で分かったという。 幸い外部電源が復旧し、事なきを得た。 (東北関東大震災リサーチ) (原子力安全・保安院 2011年4月9日「東通原子力発電機における非常用ディーゼル発電機(B)の運転上の制限内への復帰について」)
27 Jun 2011 修正加筆
上記記事で「3台ある非常用ジーゼル発電機のうち2台が使えず」というのは誤りで、「2台ある非常用ジーゼル発電機のうち1台は定期点検中で使えず」が正しいようだ。
2台しかなければ片方を点検などで停止すれば、残り1台が頼り。それが故障すれば…・という事態は容易に起こりそうだ。
米国の原発では非常用ジーゼル発電機は4台~8台持っていることが普通。
そういう目で日本の原発を見ると、重要な機能を2系統持っているだけで「多重」と称していることが多いことに気づく。
17 Jul 2011 加筆
女川原発のジーゼル発電機(A)は、1週間前の2011年4月1日に故障が確認され、修理を待っていたので、余震のあった4月7日はジーゼル発電機(B)一機のみ待機。
(2011年04月08日報告「東北電力(株)女川原子力発電所1号機における非常用ディーゼル発電機A号機の損傷について」)。
余震で外部電源4回線中3回線が遮断。残る1回線が生きていたので、ジーゼル発電機の出番は無かった。
5 Jul 2011 加筆
電源多重化の重要性を指摘し、炉心溶融という今回のフクシマの事故をそのままに予言する国会質問は過去に何度もあり、最近には1年前にあった。
「日本の原発は多重防護されており、炉心溶融などの過酷事故は論理的には考えられても、現実には起こり得ない」
というのが政府原子力安全・保安院の答弁だった。
(「原発事故 吉井議員質問ダイジェスト」の2010年5月26日の部分)
(2010年文部科学省作成の中学生向け副読本「チャレンジ!原子力ワールド」p29) |
2011年5月2日、日本原子力発電(株)敦賀発電所2号機において1次冷却材中の放射能濃度の異常な上昇が見られた。 原子炉は手動で停止させ、現在その原因を調査中。 (日本原子力発電プレスリリース)
原発炉内で作られる放射能を外部に出さないため、「5つの壁」で守られるという(「チャレンジ!原子力ワールド」など)。 このうち第1と第2の壁が破られたことになる。 福島では燃料が溶けたことによってこれらの壁が破られたが、敦賀2号機でこれが破られた理由はまだ分かっていない。
28 Jul 2011 追記
燃料棒1本の表面にごく小さな穴が開き、冷却水に放射性物質が漏れたことが原因と「推定」、この燃料棒を含む燃料集合体を再使用しないことにした
(2011年07月25日 時事)。
私が予想していたとおり、原因不明のまま偶発事故としての処理。別の燃料棒には穴が無いという保証もない。
5月(2日?)、敦賀2号機で微量の放射性ガスが外に漏れた。 配管接合部で密閉性が良いとして推奨されていた銀メッキ部品(ガスケット?)を、2004年の分解点検時にメッキの無いものに交換していたという (2011年07月12日 共同通信)。
敦賀1号機のほうでは2011年5月21日、廃液貯蔵タンクで薬品漏れと、微量の放射能洩れがあった (2011年05月21日 時事)。 その後の調査の結果、配管の腐食が主要因とみられる (2011年7月13日 毎日新聞福井版)。 1977年に設置後、昨年外観検査を一度しただけという (2011年7月12日 産経)。
敦賀1号機は現在稼働する日本の原発中で最古参。 日本の原発中ただひとつ非常時のベント機能がない。 ベントを付ける工事をするとのことだが (2011年7月4日 時事)、 いいかげんにあきらめて引退すべきてはなかろうか。
ちなみに日本原子力発電が保有する原発3基は定期点検による計画停止を含めすべて停止している。 敦賀発電所からは北陸電力、中部電力、関西電力などへ供給されるべきもので、このトラブルは、これら電力会社管内における供給不安材料の一つとなっている。
2011年5月14日、政府の要請を受けて停止作業中の中部電力浜岡原発5号機で原子炉内への海水が流入するトラブルがあった。 再循環配管の蓋が外れ、吹き出した蒸気で復水器内の細管43本が破損したと見られる。 ここから海水5トンが原子炉内に混入した。 (中日新聞の記事)
(原子力発電のしくみー前出「チャレンジ!原子力ワールド」p10) 図中右下、緑色の蛇行で表されているところ。 海水と炉水が細管の内と外をそれぞれ流れる。 |
一見すると軽いトラブルのように見えるが、炉内に海水が流入したのは、たまたまの圧力バランスであって、逆に炉内の水が海へ流出する可能性もあったことになる。 この細管とは復水器の中にあるもので、炉内の循環水(1次冷却水)の熱を海水で冷やす目的の熱交換器、車でいうラジェーターのようなものの一部。直径3センチ、厚さ0.5ミリ。 さきに「5つの壁」を紹介したが、第3〜第5の壁などすっ飛ばし、 この0.5ミリの壁を介して炉内の循環水は海水と接している。
同様の部分の事故は過去に関西電力美浜原発などでも起こっており、この部分はいわば原発のアキレス腱なのかもしれない。 (週刊「かけはし」2002.11.25号「美浜原発3号炉で14・8トンの冷却水喪失の重大事故」)
浜岡原発といえば、海江田万里経済産業相が2011年5月5日に視察し、おもに津波対策で「いくつか具体的な指摘をした」そうだが、不十分だったのは津波対策だけではなかったようだ。
4 Oct 2011 加筆
2011年10月4日、九州電力玄海原発4号機で、復水器の真空維持に異常があり、原子炉が自動停止した
(九州電力プレスリリース)。
同じ復水器の異常だが、トラブル箇所は少し違うようだ。
関連する弁の補修作業を行っていたので、その関連も含め調査中。
復水器はけっこう根幹の部分なので、これを原子炉運転中に補修していたというのはいささか驚き。
これは原発の事例ではなく、火力発電所のトラブル。 火力発電所も原発も蒸気タービンで発電する部分は同じ。同じようなことが原発でも起こり得る。
2011年5月30日、舞鶴発電所で、暴風雨により、取水口に海藻等の漂着物が大量に流れ込んだことで、蒸気を冷却する海水の取水量が減ったことから、取水側と放水側の海水の温度差が大きくなった。 1号機の停止および2号機の出力抑制により当面対処。海水取水系統に溜まった海藻等の漂着物を除去する作業を実施中 (関西電力「舞鶴発電所における取放水温度差の環境保全協定値超過について」) 。
「取水側と放水側の海水の温度差が3時から4時の1時間の平均値で7.1℃となり、京都府、舞鶴市および高浜町との環境保全協定値である7℃を超過しました。」 (同上関西電力プレスリリース冒頭部分)
関西電力の報告を表題と冒頭だけ見ると、ごく些細なことと見過ごしそうだ。しかしよく見ると大きな事件だ。 舞鶴発電所は若狭湾にある火力発電所で1号機、2号機ともに90万kWと原発並みの大規模なもの。その1基が停止、他の1基も出力を落としている。 その原因だが、暴風雨の影響で海水の取水量が減ったこと。 同様のことが原発で起こったら……、 地震、津波だけでなく台風でも原発の機能停止が有り得る。 たとえ電源が健全で水は循環していても、最終的に熱を冷やすのは海水だから、それの取り込みができなくなっては安全は保証されない。
27 Jun 2001 追記
2011年6月23日17時10分頃、中国電力島根原発2号機で取水槽内にある除じん機12台のうち2台が自動停止。タービンを回した水蒸気の冷却に必要な海水量が減るため、82万キロワットの出力を手動で77万キロワットに下げた
(中国電力「島根原子力発電所2号機の出力降下について」)。
原発でも、さきの舞鶴火力発電所と同様に、海水の取水に問題が生じた例。原因はクラゲだった。 クラゲを除去し、翌24日8時ごろ正常出力に回復。 除じん機12台のうち2台の停止だったので、大事には至らなかったが、回復までに15時間掛かっている。 クラゲがもし、もっと大量ならば、重大事故にならないとも限らない。
クラゲによるトラブルは過去何度も起きている。島根原発だけでも、もう3度目だとか。原発にクラゲは付き物とも (Refine-Debate.blog「原発とクラゲについての考察」)。
2 Jul 2001 追記
2011年6月28日、スコットランド(英国)トーネス原子力発電所で冷却水のフィルターに大量のクラゲがひっかかったため、同発電所2基の運転が手動で停止された
(ロイター時事)
(ジアスニュース)
(AFP通信)
。
ちなみにスコットランドは電力の4分の1以上を再生可能エネルギーから得ている。
2011年5月18日、スコットランド政府は2020年には再生可能エネルギーで100%まかなう計画を発表した
(Renewables revolution aims for 100%)。
17 Jul 2011 加筆
2011年7月15日、関西電力大飯原発1号機で、緊急炉心冷却装置(ECSS)系統の蓄圧タンクの圧力が低下するトラブルが生じた。調整運転中だった同機を手動停止し、原因を調査中
(関西電力「大飯発電所1号機の原子炉手動停止について」)。
大飯1号機は昨年12月10日から定期点検を行い、その最終段階の調整運転を大震災前日の今年3月10日から始めていたところ。
こういうことが起きると、その定期点検って大丈夫なの?と心配になる。
産経新聞報道によれば、規定されている当該タンクの外観検査が行われていなかったとのこと
(産経関西2011年7月17日)。
もともと目視による外観検査で何が分かるのかとも思うけれど、この時期に点検ミスとは、関西電力も緊張感が足りないのではないか。
以上概観したように、2011年3月11日の「フクシマ」以降も、罷り違えると重大事故につながらないとも限らぬ「間一髪」のトラブルは全国の原発で相次いでいる。
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