「原子力は夢のエネルギー」
そう、そしてそれは悪夢だった……。
関西電力は今年2011年8月の電力需給予測について、6.4%足りないとした(その後 7月20には 6.2%と修正)。 これはウソで、じつはほとんど足りている。 ただ、余裕は必要で、その目標を8%(猛暑を考慮した需要増3% + 発電設備の不測の停止5%)としよう。 それを大阪ガスなど他社や需要家の自家発電などからの調達に努力したうえで、残る部分を需要家への節電を依頼するのが正しい姿だろう。
関西電力のウソでとりわけ問題なのは、今年の年度始め(3月28日)に経産大臣に提出された供給計画での需要予測が 2.956万kWなのに対し、 6月10日以降は 3,138万kWと修正したことの不可解。その差 183万kW、およそ 6.2%で、この水増し分は足りない足りないと言っている数字のそのまま。 政府は 7月20日、関西電力管内で10%の節電を要請したが、その根拠は関西電力の言い分をそのまま了承している(10%の数字は関西電力が6月14日に出した説明資料のとおり)。
この 6.2%をメディア各社が鵜のみにしていることも問題だが、3月28日の数字 2.956万kWは経産大臣が了承したものだから、その後 3,138万kWへの修正を追認した経産大臣もその責任を負う。 一部報道によればこの点も含めての情報開示を求める文書を国家戦略室が作成し、首相から経産省へ指示があったという。
以上のまとめを 24 Jul 24 追記。 以下は議論の詳細……
夏の需要ピークを目前に控えた2011年6月10日、関西電力は管内の需要者に対し15%の節電を要請した (関西電力「今夏の需給見通しと需給対策の状況について」)。 大震災と原発事故にみまわれた東北電力や東京電力、浜岡原発を停止することになった中国電力はともかく、直接影響のない関西電力まで電力不足が懸念されるのはどういうことだろう。 これは定期点検で停止した原発の再稼働に地元の理解が得られていないことが主な原因だ。 現在のところ関西電力が頼る原発のおよそ半分が停止中で、このまま停止が長引いた場合、電力の供給不足は懸念される。
この6月10日の節電要請には、「15%」の根拠が不明確、「7月1日から9月22日の平日9時から20時まで」と長いこと、「すべての」需要者に一律、 など計画が大雑把で説明不足として反発が強まっている。 それを受けてか関西電力は6月14日、追加説明資料を用意した (関西電力「節電のお願いについてのご説明」)。 しかし、説明すればするほど、そのアラが見えてくる。
関西電力 2011年6月10日プレスリリースより |
まず、6月10日の資料では8月の最大(需要)電力の見込みを 3,138万kW、供給力は 2,938万kWとした(前出の「今夏の需給見通しと需給対策の状況について」添付資料1)。 これから見込まれる予備率は マイナス6.4%で、15%の節電が達成できれば、予備率は 8.6%となり、望ましいとされる 8-10%を確保できる。 と、まあこのほうがすっきりすると私は思うが、予備率の説明に苦慮したのか、6月14日の追加説明資料にはさまざまな数字が飛び交い、かえってその根拠を疑わせる。 それよりも、この最大電力の見込み 3,138万kWはどこから出てきた数字なのかが問題だ。
関西電力 2011年3月28日「平成23年度供給計画」より |
今年の年度始め(3月28日)に経産大臣に提出された供給計画を見てみよう (「平成23年度関西電力グループ経営計画」中の供給計画)。 ここで平成23年度の最大需要電力の想定は 2.956万kW、供給は 3,290万kWで、予備率は 11.3%と見込んでいる。
はて、6月10日の資料では8月の供給力は 2,938万kWに落ち込むとした。 すると足りないのは 2.956万kW - 2,938万kW = 18万kW ではないのか。 たかだかマイナス1%。 安心できる予備率を 8%とすれば、合わせて 9%ほど節電すればOKということになる。
では 3,138万kWはどういう数字なのか。 いわく「昨年なみの猛暑の場合に予想される最大電力」だとか。 6月14日の追加資料では 「平成22年度からの経済成長によるベース需要の伸びに加え、猛暑による気象影響量を反映」と説明している。 これは関西電力のさしずめエリート書いたものだろうが、墓穴を掘っている。というのは…。
そもそも今回の想定需要がもし正しいのだとしたら、今年3月28日に提出された供給計画はいったい何だったのかということになる。
関西電力の発電電力量比 関西電力調べ (過去10年平均 他社受電分含む) (平成22年3月末現在) |
関西電力管内の電力の半分は福井県若狭地方にある原発から得ている (関西電力「関西の暮らしを支える電気」) 。 日本全体では1/3というから、関西電力の原発依存度はいちじるしく高い。 現在停止中あるいはこの夏に停止が見込まれる原発はそのおよそ半分に上る。 今年2011年5月度の原発の稼働率は日本全体で平均すると40.9%(日本原子力産業協会調べ)だが、 いまにはじまったことではなく月次で50%程度に落ち込んだことは近年に何度かある(近いところで2008年4月は49.1% - 原子力安全基盤機構「原子力施設運転管理年報 平成21年版」より - など)。 しかし若狭地方で近年大きな災害もなく、比較的良い成績だった。 なので今年の状況は関西電力にとっては大事(おおごと)なのだ。
単純に考えると半分の半分で、25%くらい足りないのではないかと見えるかもしれない。 上記の私の計算では9%。関西電力の曰く 15%、ただし6月14日の追加説明によると15%はサバ読みで、じっさいは11%ということらしい。 いったいどうしてその程度で済むのか。そのカラクリの説明が必要かもしれない。
電源のベストミックス 出所:電気事業連合会 |
いま論じているのは需要のピークで停電にならないかどうかという供給の安定性。 この場合には発電実績ではなく、設備能力を見なければならない。 どう違うのかを理解するために、変動する電力需要に対応して電力会社はどのように設備を動かすのかを知らなければならない。
燃料代から言うと水力発電はタダだから、まずこれを動かす。ただしダムや貯水池のあるものは後述の理由からピーク時のために温存させることがある。 次に原子力はその燃料費の割合がいちじるしく小さいから、可能な限りこれを動かす。 というか原発は簡単に止められないし調整も効かないので事故や定期点検で止めない限りは基本フルパワーで動かしている。
需要が増えるとそれに応じて火力発電を動かす。 それでも足りないピーク時には、そのために温存していた水力を動かす。 そういうわけで需要のピーク時には、逆に言えばピーク時にのみ、全設備を動かすこととなる。 ピーク時以外は設備の一部は遊んでいるので、もったいないことではある。
ここで揚水発電について説明しておく。 「電力は貯められない」というが、じつは貯められる。 高低差のある2つの溜池を用意しておく。昼間の需要ピークでは上から下へ水を流して発電する。 夜間の電力需要の少ないときにポンプで下の水を上の池に汲み上げておくと、翌日の発電に備えることができる。 差し引きでムダが出るので、あまり使いたくない方法だが、たとえば原発はいつもフルパワーなので、もし夜間に電力が余るとすれば、それを捨てるよりは揚水に使うのが有効な方法だ。 ちなみに関西電力は他社に比べて多くの揚水発電設備を持っているようだ。
右の図は関西電力の発電設備と発電電力量の構成比を示したもの (前出「平成23年度供給計画」より)。 平成22年度の実績を見ると、原子力の占める割合は発電電力量で43%だが、設備で見ると25%だと分かる。 このうちの半分が止まったとすると、需要ピークでの供給力への影響は12.5%ということになる。
もともと関西電力の供給力には余裕があったので(同供給計画で予備率11.3%)、この程度なら顧客からの自家発電買い入れを増やすなどでカバーできるかもしれない。 余裕が必要だとしても、 さきの試算で9%(小生試算)〜11%(関西電力6月14日の資料)あたりの節電ができれば充分ということが分かる。