「原子力は夢のエネルギー」 |
「原子力は夢のエネルギー」
そう、そしてそれは悪夢だった……。
原子力発電の場合 |
原子爆弾の場合 |
これまで私たちは根拠の無い原発安全神話に騙されてきた。 しかし「原発は安全」とする論に根拠が無かったわけではない。 2010年文部科学省作成の中学生向け副読本「チャレンジ!原子力ワールド」を見てみよう。
「原子力発電と原子爆弾のちがい
原子力発電と原子爆弾は、ともに核分裂によるエネルギーを利用する点では同じですが、そのしくみは根本的にちがいます。
燃料となるウランは、ウラン235とウラン238が混ざっていますが、核分裂を起こすのはそのうちウラン235だけです。
原子力発電ではウラン235の割合が3~5%となっているのに対して、原子爆弾ではウラン235の割合をほぼ100%に濃縮して使われます。
そのため、原子力発電ではゆっくりと核分裂の連鎖反応を起こさせてエネルギーを制御することができますが、
原子爆弾では非常に短い時間で大量の核分裂の反応が起こり、一気に膨大なエネルギーが放出されます。
原子力発電は、原子爆弾と比べウラン235の割合が非常に低く、核分裂を制御する制御棒を備えているため、原子力発電所で原子爆弾のような核爆発が発生することはありません。」
(2010年文部科学省作成の中学生向け副読本「チャレンジ!原子力ワールド」p20)
なるほど、原発は原爆に比べればとっても安全という話だったのね。 しかしチェルノブイリや福島では、原爆ほどではないにせよ、原子力発電所での爆発は起こっている。 また、原子力発電ではエネルギーを制御できると言ったのは本当だったのか。
2011年3月11日の地震発生時、福島第1原発で稼働中の1号機〜3号機は自動で制御棒が入り緊急停止したという。 しかしその後燃料溶融、水素爆発に至った。 これは停止後に残る崩壊熱を冷却できなかったからだ。 また地震発生当時停止していた4号機でも水素爆発が起こった原因には異説もあるが、燃料プールにあった使用済燃料の過熱に依るものと見られている。
(チャレンジ!原子力ワールド」p34) |
核燃料(ウラン)を燃やすとプルトニウムをはじめ、非常に高いレベルの放射能を含む核分裂生成物が作られる。 これは崩壊熱というエネルギーを放出し続ける。 燃料の熱出力は制御棒で制御されるが、全挿入しても熱出力は0%にはならない。これは予熱のようなものでなく「残り火」という表現のほうが近い。 停止できるのは主反応というべきウラン(とプルトニウム)の核分裂連鎖反応だけで、 核分裂生成物から出てくる崩壊熱が数%あり、これは制御することができない。
原子炉が健全な場合、これを水で冷やす。 元がたとえば100万kWとかなので、その数%といってもとほうもない熱量だ。 これを水で冷やし続けること丸1日くらいで運転時300℃程度だった炉心が100℃まで下がる。そこではじめて圧力容器の蓋を開けることができ、 燃料棒を燃料プールに移動することができる。移動先のプールも水を循環させていないとプール内の水は数日で沸騰するという。 いったいどれくらいすると落ち着くのかというと、3~5年は冷やし続けないといけないらしい。
誤解しないように繰り返すが、以上は原子炉が健全な場合のストーリー。 水が循環できないとか冷却がうまくいかないと、炉心溶融などに至る。それが福島の事故の場合だ。
核燃料のウランは放射性物質だが、取扱いを間違えなければ(取扱いを誤れば1999年東海村での臨界事故のようなことが起こる)、その放射能はそれほど強くない。 しかし、いったんこれを使用すると、プルトニウムをはじめ、非常に高いレベルの放射能を持つ。 つまり核燃料は使用前より使用後のほうが強い放射能を持つ。 「死の灰」だ。 ただしMOX燃料(福島第一原発3号機で一部使用)はプルトニウムを配合しており、使用前からかなり強い放射能を持つ。
原子力発電で使われる核燃料に含まれるラン235は3~5%。 これを燃やして生成されるプルトニウム1%、その他の高レベル放射能3~5%。 これらの数字からは「わずか」という印象を受ける。 これらを原爆と比較する場合、そのベースの数字がけた違いだということを忘れてはいけない。 広島に落とされた原爆に使われたウランは約60キログラムだという。 いっぽう、100万kW級の原子炉に装填される核燃料はおよそ60トン。 キロとトンでは千倍違う。
100万kW級の原子炉1基は1年間でおよそ20トンの核燃料を消費するという。 福島の場合で6基、全国で54基の原発が過去40数年で作り出した高レベル放射能=死の灰は「原爆何個分?」なんて計算するのも気が遠くなる。
気を取り直して、今回の大事故を起こした福島第1原発の1号機〜4号機に限ってみよう。 東京電力や原子力安全・保安院の計算が炉内にあるもの、燃料プールにあるもののどこまで計算に入れているか分からないが、 あの事故現場にはいま、どう少なく見積もっても広島原爆換算で数百個分の死の灰があるはず 仮にその1%程度が環境に放出されたとして、広島原爆の少なくとも数個分。 ただし、ヨウ素、セシウムなど気化成分はその大半が放出されたと思われ、それに限って比較すると、そのまま数百個分かもしれない。 また、海洋にはストロンチウムが大量に出ているはず。
(30 Jun 2011 結論は同じだが計算式修正 死の灰は0.6%でなく6%) (福島第1原発にあるウラン燃料の総量は1760トン。うち、 炉心にあるか燃料プールにあるかを問わず1号機~4号機3年分の死の灰(+プルトニウム)発生量=4基×3年×20,000kg×6%=14,400kg。広島型原爆がすべて反応したと仮定して60kgで割ると240個分。 ただし原爆と核燃料とはウラン構成比の違いから核反応や生成物も異なる。 また半減期の違いから、ヨウ素だけ、セシウムだけなどの比較では計算は異なる。 したがって、これらの計算は大雑把にしかならない。 原爆では最初の核分裂反応で大量の放射線が放出されるのだが、ここでは生成される放射能=死の灰に限った議論。 原爆での生成物は爆心半径2km程度に集中し、大気に乗って「黒い雨」を降らせたのは一部だから、それだけの比較ならば、倍数はもっと大きくなる。 )
児玉龍彦氏(東京大学先端科学技術研究センター教授 東京大学アイソトープ総合センター長)は、
熱量計算で約30個分、ウラン換算で広島原爆20個分としている。ただし原爆に比べ減衰速度が極めて遅く、残存量はずっと多量とのこと。
(2011年7月27日 (水) 衆議院厚生労働委員会
「放射線の健康への影響」参考人説明より - Youtube)
(ブログ「みんな楽しくHappyがいい♪」でテキスト起こしされたもの)
チェルノブイリのときは原爆 500個分という試算や、今回の福島はその1/10などという数字を使うならば、今回は50個分などと計算できる。 公表されているデーターからもう少し正確な計算ができるかもしれないが、 いずれにせよ、今回のフクシマで飛散した放射能の量はヒロシマの死の灰の総量よりはるかに多いという結論になる。
26 Aug 2011 加筆
広島原爆の何個分かについて政府から公式の数字が出た。
それによると福島第1原発1〜3号機から放出されたセシウム137は広島原爆の168.5個分という。
福島は2011年6月の国際原子力機関(IAEA)閣僚会議に対する日本政府報告書より 15,000TBq、
広島は「原子放射線の影響に関する国連科学委員会2000年報告」をもとに 89TBq.
(2011年8月25日 東京新聞)
死者の数でいうとヒロシマでは最初の数ヶ月だけで10万人を超える。これに対してフクシマでは自殺者や避難中の死亡、因果関係不詳の作業者の死亡などを合算してたぶん十人に満たない (「直接の死者はゼロ」などとは言わないで欲しい)。 しかし家を追われた人や生計を失った人の数、広大な放射能汚染と今後に残す問題はヒロシマをはるかに超える事態になっているということを直視しなければいけない。
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