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「原子力は夢のエネルギー」

原発から原爆を作れるか

22 Aug 2011 追記 (20 Jul 2011 初出)

「原子力は夢のエネルギー」
そう、そしてそれは悪夢だった……。

kunibetu gensiryoku

反原発三国同盟

俳優・菅原文太が2011年6月14日、脱原発を決めたドイツ、イタリアと団結し「反原発三国同盟」の結成を提案した (デイリースポーツ2011年6月15日)。 ブラックジョークに聞こえなくもないが、必然性がないわけでももない。 原発を有する主要国を見ると、日本と韓国、脱原発を決めたドイツを除くと上位はいずれも先の大戦の戦勝国。 米国、フランス、英国は、最近リビアに軍事行動を行った国だ。 すなわち軍事と原発は深い関わりがある。

1950年代から60年代にかけての主要国での原子力開発・実用化は、エネルギー政策というより、多分に各国の軍事政策と密接な関連がありました。
(エネルギー白書 2010 p37)

1969年に外交政策企画委員会が作成した「わが国の外交政策大綱 (PDF)」という機密文書には「当面核兵器は保有しない政策をとるが、核兵器製造の経済的・技術的ポテンシャルは常に保持する」とある(p67)。

フクシマ以降、原発を減らすことには同意しても、完全に無くすことには強く抵抗する勢力がある。 それは核兵器製造の潜在能力を放棄する、ドイツやイタリアのような二流国になりたくないという意志が働いているのだろう。 核兵器を製造できることを誇示する北朝鮮と同じ発想だ。

本音を言っちゃいましたね

22 Aug 2011 追記
2011年8月16日、テレビ朝日の番組『報道ステーション』で、自民党の石破政調会長は原発の必要性について述べ、原発は核武装のために必要だと力説しました。 「日本は(核を)作ろうと思えばいつでも作れる、1年以内に作れると、それはひとつの抑止力ではあるのでしょう。 それを本当に放棄していいですか」
(2011年8月16日 報道ステーション 私はこう思う 石破茂自民党政調会長 - YouTubeにアップされていた動画はテレビ朝日からの申し立てで削除されてしまいました。 発言内容はニコブログさんのメモがあります。)

21 Sep 2011 追記
「日本は原子力の平和利用を通じて核拡散防止条約(NPT)体制の強化に努め、核兵器の材料になり得るプルトニウムの利用が認められている。こうした現状が、外交的には、潜在的な核抑止力として機能していることも事実だ。」 (2011年9月7日 読売新聞 社説)

2011年7月15日、東京都の石原慎太郎知事は、原子力発電はなお必要であり、中国や北朝鮮からの脅威をかわすためにも核兵器を保有すべきだとの考えを強調した(ブルームバーグ・ニュース 2011年7月19日)。

2011年8月5日、東京都の石原慎太郎知事は、「プルトニウムは山ほどある」と述べ、核保有のための模擬実験は短期間で可能との認識を示した。 (2011年8月6日 共同)


(チャレンジ!原子力ワールド」p34)

原爆製造装置としての原発

広島に投下された原爆はウランでできており、長崎に落とされた原爆はプルトニウムでできていた。 いっぽう原発はウランを燃やし、プルトニウムができる。 ウランから原爆を作るのはたいへんで、それよりもウランを燃やしてプルトニウムを作り、それで原爆を作るほうが容易だ。 もともと原発はプルトニウム製造装置だった。 ウランを燃やす過程で発生する熱で、ついでに発電するというものだった。

1967年から約2年半にわたる内閣調査室の研究「日本の核政策に関する基礎的研究」 によると、「プルトニウム原爆を少数製造することは可能で、また比較的容易だろう。」ということだ。 40年間の原発の運転で、日本はいま34トン、原爆数千発分相当のプルトニウムを保有している (2007年12月末。原子力燃料政策研究会)(核情報)

ところが(廃炉中の東海1号機を除き)、日本にある軽水炉は原爆製造装置としては欠陥品だ。 というのは、軽水炉で作られるプルトニウムには、原爆に適したプルトニウム239とともに同位体のプルトニウム240も多く含まれる。 このまま原爆を作ると暴発(自発核分裂)の可能性があって兵器としては役に立たない。 (米国が北朝鮮に対し、核兵器開発放棄を条件に軽水炉を提供すると提案するのは、この理由による。)

キーとなる「核燃料サイクル」

いずれにせよ使用済核燃料からプルトニウムを取り出す技術が必要となる。 六ヶ所村で試運転中の核燃料処理がそれだが、残念ながら軽水炉の使用済核燃料からは、原爆に適したプルトニウムを取り出すことはできない。 原爆に適したものを作るには、高速増殖炉と、それにより作られるプルトニウムを抽出することが必要となる。 「もんじゅ」原型炉は、そういう意味での希望の灯火なのだ。

「核燃料サイクル」の名のもとに、核兵器製造技術を築き上げようとしていたのだが、ここへ来て問題がある。 今後原発を漸減し、やがて無くしていく方向ならば、「核燃料サイクル」や高速増殖炉を続けていく意味がなくなる。 六ヶ所村の核燃料処理施設はこれまでに2.2兆円、高速増殖炉関連も2兆円。いまだ完成の目処も立たない状況なので、今後も膨大な費用が見込まれる。

22 Aug 2011 追記
2011年8月10日付け読売新聞社説『核燃サイクル 無責任な首相の政策見直し論』は、 「日本は、平和利用を前提に、核兵器材料にもなるプルトニウムの活用を国際的に認められ、高水準の原子力技術を保持してきた。これが、潜在的な核抑止力としても機能している。」 と、核燃料サイクル推進派の本音をあけすけに述べている(阿修羅に全文転載あり)。 同じ論は2011年9月7日 同紙社説エネルギー政策 展望なき「脱原発」と決別を』でも繰り返している。

元原子力委員会委員で九州大学大学院吉岡斉教授は「もんじゅ」の外交上の隠れたパワー、核抑止力に言及した(YouTube - NHK申し立てにより削除)。

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核兵器は未完成の技術

原発はひとたび事故が起きれば人間の力で御しきれないばかりではない。 事故がなくとも、その核のゴミを適切に処理する技術を人類は持たない、未完成の技術だ。 また「核燃料サイクル」や高速増殖炉も未完の技術であることは変わりがない。 しかし、みんなあまり気が付いていないことがある。 一部の人たちが夢見る核兵器、原爆もまた未完成の技術だということを。

原爆はヒロシマ、ナガサキで忌まわしい実験が行われた。その後も核実験は繰り返されたが、気付かれなかったか軽視されたことがある。 それはチェルノブイリやフクシマで明らかになった、死の灰の恐怖。

大量破壊兵器として化学兵器、細菌兵器、核兵器が挙げられる。前の2つは国際法で禁止されているが、最後の核兵器は禁止されるに至っていない。 しかしこれらに共通点がある。禁止されようとされまいと、実用にならないのだ。

兵器というものは、敵にダメージを与えても味方にはダメージを与えてはならない。 たとえば細菌兵器だと病原菌を発見あるいは開発すると同時に、特効薬の開発が必要だ。 化学兵器の場合、それを散布して打撃を与えたあと、 ガスマスクでも付けて制圧に入ったとしても、その後消毒の手段を持っていないと、後の支配に支障が出る。 だから実用できるのは毒性が弱く持続性のない、催涙程度のものに限られる。

ところが核兵器の場合、破壊することはできるが、残る放射能を防ぐ術がない。 放射線防護服は体内への放射能の取り込みは防げるかもしれないが、放射線には無防備だ。 ガンマ線は素通りか、多少弱める程度しかできない(中性子線にいたっては防ぎようがない)。 地域規模での放射能除染もほとんど無理。 フクシマの事故で米軍は半径80km内への立ち入りを禁止し、神奈川県横須賀に居た米第7艦隊の原子力空母ジョージワシントンは九州佐世保に退避した。 たとえば東京に原爆を落とせば破壊はできるが、そこへ進軍できない。 首都圏一帯が使えなくなるので、それを占領する意味もなくなる。

日本の奇跡

けっきょくのところ、「核兵器製造の潜在能力を持つ大国日本」という北朝鮮的発想も、ただ夢のまた夢でしかない。 ほんとうに大国日本を目指すとすれば、漫画『攻殻機動隊』に登場する「日本の奇跡」 (Wikipedia)、放射能汚染除去技術の開発こそいま必要ではなかろうか。

23 Jul 2011 追記
国の原子力委員会は7月19日、2012年度の原子力関係予算について、東京電力福島第1原発事故の対策を強化する一方、核燃料サイクルなど従来の研究開発は「継続しないと国益を損ねるものに限り継続する」と、大幅に後退させる基本方針を決定した。 放射性廃棄物対策は「将来の原子力政策がどう変化しようと必須だ」として、着実に進める必要性を強調した (福井新聞 2011年7月20日)

参考リンク



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